2026.05.13
アワリーマッチングとは|法人の再エネ調達が「年間」から「時間単位」へ変わる理由
これまで企業の再生可能エネルギー調達は「1年間トータルで再エネ100%にできていればOK」というのが当たり前でした。しかし最近、国際的なルールが「昼に使った電気は昼の再エネで、夜に使った電気は夜の再エネで賄うべき」という、より厳しい基準へと動き始めています。これが「アワリーマッチング(時間単位マッチング)」です。本記事では、この新しい潮流の背景、国内の先行事例、そして法人が今から準備すべきことを、できるだけやさしく整理します。
この記事のポイント
- アワリーマッチングとは、自社が電気を使った時間と、再エネが発電された時間を1時間単位で一致させる新しい調達の考え方
- 国連主導の「24/7 CFE Compact」や、企業のCO2報告ルール「GHGプロトコルScope2」の改定案がこの流れを後押し
- 国内では京セラコミュニケーションシステム、NTTグループ、三菱電機などが先行
- 実現の入口は「自社で使う電気を、自社の屋根や敷地で発電する=自家消費型太陽光発電」の整備
- 法人がまず取り組めるのは「時間ごとの電力使用量の見える化」と「自家消費型太陽光発電の検討」
アワリーマッチングとは
アワリーマッチングとは、企業が「電気を使った時間」と「再エネで発電された時間」を1時間ごとに一致させる再エネ調達の考え方です。「どれだけ使ったか」だけでなく「いつ使ったか」を重視する点が、これまでの再エネ調達と大きく異なります。
「年間で一致していればOK」との違い
これまでの代表的な仕組みがRE100(事業活動の電気を100%再エネにすることを目指す国際イニシアティブ。AppleやGoogle、ソニーなどが加盟)です。RE100では、1年間トータルで「使った電気量」と「再エネ発電量・証書(再エネだと証明する書類)」が一致していれば再エネ100%として認められます。
つまり従来は、昼間に太陽光で発電した余りを使って、夜間に火力発電由来の電気を使った分を「帳消し」にすることが認められていました。一方、アワリーマッチングでは「夜に使った電気は夜に発電された再エネで賄う」必要があります。年間で見れば100%再エネでも、夜の時間帯は化石燃料由来の電気に頼っている、という時間ごとのズレを許さない考え方です。
なぜ今、時間単位なのか
再エネが普及するほど、「昼は再エネが余り、夜は足りない」という時間ごとの偏りがはっきりしてきました。年間で一致させるだけでは社会全体の脱炭素にはつながりにくい——こうした問題意識が、国際的に高まっているためです。
年間マッチングとアワリーマッチングの違い
| 比較項目 | 年間マッチング(従来のRE100など) | アワリーマッチング |
|---|---|---|
| 評価の単位 | 1年間トータル | 1時間(または30分)単位 |
| 時間のズレ | 昼の余りで夜の消費を相殺できる | 同じ時間帯の再エネのみ有効 |
| 主な手段 | 太陽光発電、再エネ証書の購入 | 太陽光発電に蓄電池やバイオマスなどを組み合わせ |
| 位置づけ | 普及期の標準 | 今後の国際的な評価軸の主流 |
| 取り組みやすさ | 比較的取り組みやすい | 段階的な準備が必要 |
国際的な流れ:24/7 CFE Compactとは
アワリーマッチングを世界的に推し進めているのが、国連主導の「24/7 Carbon Free Energy Compact(24/7 CFE Compact)」という国際的な取り組みです。
どのような取り組みなのか
「24時間365日、使う電気と同じ時間帯に発電された再エネを使おう」を合言葉にした国際イニシアティブです。Googleが2020年に提唱した考え方が母体となっており、国連の関連機関が主導しています。
求められる主な要件
- 時間を一致させる:同じ1時間以内に発電された再エネで賄うこと
- 場所を一致させる:消費地と同じ電力エリアで発電された電源を使うこと
- 透明な開示:進捗を見える形で報告すること
従来の「年間で使用した電気料と証書を一致させる」より、はるかに実態に踏み込んだ厳しい基準です。
加盟しているのはどのような組織か
Google、Microsoft、米連邦政府、スタンフォード大学のPrecourt Institute for Energy(エネルギー研究所)など、世界で170以上の組織が加盟しています。Googleは2030年までに全拠点で24時間365日のカーボンフリー電力運用を目指す目標を掲げています。
日本企業では三菱電機が2023年10月に加盟したほか、電力関連事業を展開するENECHANGEも加盟しています。
出典:三菱電機「国連主導の国際イニシアティブ「24/7 Carbon Free Energy Compact」に加盟」
出典:PRTIMES「ENECHANGE、国連が主導する国際イニシアティブ「24/7 Carbon Free Energy Compact」に加盟」
企業のCO2報告ルールも「時間単位」へ
企業が毎年公表するCO2排出量は、GHGプロトコルという国際的な計算ルールに沿って算出されています。世界共通の「ものさし」と考えてください。
このルールでは、どこからCO2が出たかに応じて、排出量を3つの「Scope(スコープ=範囲)」に分類しています。
Scope 1:自社での直接排出(工場での燃料の燃焼や、社用車のガソリンなど)
Scope 2:他社から買った電気や熱の使用に伴う間接排出
Scope 3:サプライチェーン全体(原材料調達から製品の廃棄まで)での間接排出
アワリーマッチングが強く関係してくるのは、このうち企業の電力使用に直結する「Scope 2」の部分です。ここで現在、アワリーマッチングを前提にしたルール改定が議論されています。年間合計で再エネ100%を主張しても、時間単位で一致していなければ十分に評価されない方向へと、会計ルール自体が変わろうとしています。
改定案で議論されている主なポイント
- 時間の一致:同じ1時間以内に発電された再エネ証書のみが有効になる方向
- 場所の一致:物理的に電気が届く範囲の電源でなければ有効と認められない方向
- 既存契約への配慮:すでに契約済みの長期PPA等は一定期間、現行ルールが認められる経過措置も検討中
GHGプロトコル(Scope 2)改定のスケジュール
第1回パブリックコンサルテーションは2026年1月31日まで受け付けられました。2026年の第2四半期から第3四半期にかけて、主要要件の概要が公表され、第2回コンサルテーションが実施される見込みです(時期は情報源により幅があります)。最終的な規格採択は2027年が目標とされており、確定までにはまだ時間があります。改定案の段階であり、要件の詳細は今後さらに変動する可能性があるため、動向の注視が必要です。
出典:自然エネルギー財団「GHGプロトコルスコープ2:改定案の方向性」
脱炭素目標に沿った電源構成を検討されている法人のお客様へ
日本企業の先行事例
国内でもアワリーマッチングを意識した取り組みが動き出しています。代表的な3つの事例を紹介します。
事例1:京セラコミュニケーションシステム「ZED石狩」
京セラコミュニケーションシステム(KCCS)は2024年10月、北海道石狩市にゼロエミッション・データセンター「ZED石狩」を開所しました。同社のプレスリリースによれば、国内のデータセンターで初となる常時再エネ100%(24/7カーボンフリーエネルギー)の実現を目指す施設です。
ZED石狩の主な電源構成
- 隣接する石狩湾新港洋上風力発電所からのグリーン電力
- データセンター近隣に新設した1.8MWの太陽光発電設備
- 容量6MWhの蓄電池
- AI技術を活用した電力需給制御システム
出典:京セラコミュニケーションシステム「ゼロエミッション・データセンター 石狩を開所」
事例2:NTTグループ×JERA Crossの実証実験
NTTアノードエナジー、JERA Cross、NTTドコモの3社は、ドコモの通信ビル3拠点(青森ビル・秋田ビル・仙台ビル)を対象に、2024年12月から2025年9月にかけて、太陽光発電とバイオマス発電を組み合わせたアワリーマッチングの実証実験を実施しました。プレスリリースによれば、バイオマス発電を用いたアワリーマッチングの実証結果の公表は国内初とされています(公表時点での企業調べによる)。
| 項目 | 実績 |
|---|---|
| 実証期間 | 2024年12月〜2025年9月 |
| 対象拠点 | ドコモ青森ビル・秋田ビル・仙台ビル |
| 電源構成 | 太陽光発電+バイオマス発電 |
| 全期間平均マッチング率 | 94.8% |
| 最高月実績 | 2025年6月に全時間帯でマッチング率100%を達成 |
変動しやすい太陽光発電を、安定したバイオマス発電と組み合わせることで高精度の時間一致が可能となることを示した、実務的に重要な事例です。
出典:JERA Cross「NTTグループとJERA Cross、24/7カーボンフリー電力供給に向けたHourly Matchingの実証実験を完了」
事例3:三菱電機の取り組み
三菱電機は24/7 CFE Compactへの加盟と並行し、自社施設で30分単位の電力管理に取り組んでいます。アワリーマッチングは理念だけでなく、実際の運用技術と一体で進んでいる段階にあります。
出典:三菱電機「「マルチリージョン EMS」を用いた大規模な社内実証を開始」
アワリーマッチングのメリットと課題
アワリーマッチングへの移行は、法人にとってメリットと課題の双方を伴います。両面を整理します。
メリット
- 時間単位で一致させることで、電力系統全体の脱炭素化に実効的に寄与できる
- GHGプロトコル改定後のScope2報告に先回りで対応できる
- 24/7 CFE CompactやCDP等の国際的な評価で優位に立ちやすい
- 取引先・投資家・ESG評価機関への説明力が高まる
課題
- 年間相殺より多くの再エネ電源を確保する必要がある
- 夜間や悪天候時を埋める電源・設備への投資が必要
- 調達コストが上昇しやすい
- 1時間単位で電力データを取得・管理する仕組みの整備が必要
法人がまず取り組める「3つの第一歩」
確定していないルールに対して一気に投資する必要はありません。今すぐ着手しても無駄にならない、堅実な3ステップを紹介します。
ステップ1:自社の電気の「使い方」を時間単位で見える化する
自社の電力使用量を1時間ごと(できれば30分ごと)に把握することが出発点です。電気料金請求書に記載されている月間の総使用量だけでは、時間帯ごとの偏りは分かりません。
そこで活用すべきなのが、スマートメーターで計測されている「30分値デマンドデータ」です。高圧受電の法人であれば、電力会社のWebサービス等からこの過去データを取得できます。この既存データを活用すれば、新たな計測機器を導入するような大がかりな投資なしで分析を始められます。「昼が多いのか、夜が多いのか」「曜日や季節で波があるか」が分かれば、次の打ち手が見えてきます。
ステップ2:自家消費型太陽光発電を検討する
アワリーマッチングの最も確実で、最も導入しやすい第一歩が「自家消費型太陽光発電」です。
自家消費型太陽光発電がアワリーマッチングの第一歩として優れている理由は、その「仕組みのシンプルさ」にあります。
通常、電力会社から買う電気を「再エネ」として扱うには、その電気が環境に優しいことを証明する「再エネ証書」などを別途購入し、使った電気の量と照らし合わせる複雑な手続きが必要です。しかし、自社の屋根で作った電気をその場で使う自家消費なら、最初から再エネそのものを直接利用するため、こうした煩雑な証書のやり取りは一切必要ありません。
さらに、遠くの発電所から電線を伝って運ばれる電気とは違い、移動中に熱として失われる「送電ロス」も発生しないため、再エネを最も無駄なく活用できるという大きな利点があります。
屋根面積や耐荷重に制約がある場合も、選択肢は広がっています。
- 産業用ソーラーカーポート:駐車場の上部空間を発電スペースに活用
- 軽量太陽光パネル:従来比約60%の軽さで、耐荷重に不安のある屋根にも対応
- 水上太陽光発電(ため池太陽光):自社のため池や調整池を活用
- PPAモデル(電力購入契約):初期投資ゼロで自家消費型太陽光発電を導入できる契約形態
「うちの屋根は無理」とあきらめる前に、これらを組み合わせて発電容量を確保できないか、一度検討してみてはいかがでしょうか。
ステップ3:将来の電源構成を見据える
夜間や曇天時をどう埋めるかは、業界全体で蓄電池やバイオマス発電、系統からの再エネ調達などの組み合わせで模索が進んでいます。ただし法人がまず最大化すべきは「自社で発電して自社で使う電気」の比率です。ここを高めておくほど、将来どのようなルールが固まっても対応の選択肢が広がります。
自家消費型太陽光発電の導入をご検討中の法人のお客様へ
ユニバーサルエコロジーがお手伝いできること
当社は2004年より太陽光発電所建設に携わり、5,000件以上の施工実績を有しています。アワリーマッチングへの最初の一歩である「自社で発電する電気」をしっかり積み上げる工程を、設計・施工から運用・保守まで自社一貫体制でご支援します。
屋根の耐荷重や受電設備の容量など、そもそも設置できるかどうかの事前確認も、自社の技術者が現地で行います。後から手戻りが出ないよう、計画段階から実装、運用まで一貫して支援します。
主な対応サービス
- 自家消費型太陽光発電の設計・施工・O&M(運用・保守)
- 産業用ソーラーカーポート
- 軽量太陽光パネル(耐荷重制約のある屋根向け)
- 水上太陽光発電(ため池太陽光)
- PPAモデルによる初期費用ゼロ導入
- 既設太陽光発電のリパワリング(性能改善)提案
- キュービクル(受変電設備)の電気保安管理
- 補助金・税制優遇の活用支援
また当社は2025年10月に特定卸供給事業(発電設備を持たない事業者が分散型電源を集約して小売電気事業者に供給する制度)のライセンスを取得済みで、資源エネルギー庁の届出事業者一覧に登録されています。発電・施工だけでなく、将来の電力供給面でも法人のお客様をサポートできる体制を整えています。
まとめ
アワリーマッチングは、再エネ調達の評価軸を「年間の辻褄」から「時間ごとの一致」へ移行させる潮流の中核にあります。GHGプロトコルScope2改定案、24/7 CFE Compact、そして国内の実証事例——いずれも制度・技術・実装の3面で動きが広がりつつあります。
確定した制度変更ではないため過度な前倒し投資は避けるべきですが、時間別電力使用量の見える化と、自家消費型太陽光発電の検討は、改定の最終形を待たずに着手できる現実的な打ち手です。当社は太陽光発電を軸に、貴社の脱炭素戦略の入口から伴走いたします。
アワリーマッチングを見据えた電源構成のご相談





