COLUMN
太陽光発電コラム

2019/06/05

真の電力自由化で何が起きるのか

真の電力自由化で何が起きるのか

2020年4月1日、何が起こるのか。電力自由化の話。

 

東京オリンピックを間近に控えたこの日は、「発送電分離」と、電力料金の全面自由化が実施される。この日を境に何が、どう変わっていくのか、拙い想像力をめいっぱい羽ばたかせてみようと思う。

 

いま、「電力自由化」されているのか

「日本は電力自由化されているか?」と聞くと、おおかたの人は「すでに自由化されている」と答えるかもしれない。しかし、現在(2019年5月時点)自由になっているのは「電力小売」に参入できることと、「発電事業」を営むことができる、という部分である。

 

発電は自由にできるが、送電する事業者は選ぶことはできないし、電力を売る先は、法律で規定されている電力会社以外は自由契約で、つまりFITに頼らない価格(電力会社と個別に売電価格を決める契約)で販売するしかない。

 

現時点は、政府が目指す「電力自由化」の過渡期なのだ。
これが2020年4月1日、「発送電分離」が実施されて「真の電力自由化」が行われる。

 

「発送電分離」が行われ、電力料金の全面自由化が行われるとどう変わる

以前は、電力会社が発電し、送電・配電・小売りまでを行っていた。
しかし、2000年に特別高圧で電力小売り自由化がスタートした。2004年4月・2005年5月と段階的に自由化領域を広げ、2016年4月に一般家庭を含めた「電力小売全面自由化」となり、一般的に「電力が自由化された」と認識されるようになった。

 

しかし、ここで選ぶことができるのは、自分がどの電力会社から電気を購入するか、である。電力全体の「マーケット」で見たときには、大手電力会社が大半の発電・送電事業を営んでいる中では、ほんのわずかな自由に過ぎず、健全な市場に存在する「競争原理」は働きにくい構造になっている。

 

「電力の自由化」とは、これを「発電事業者」と「送配電事業者」の兼業を法律で禁止することで、それぞれに市場競争をさせ、適正な価格になるようにしましょう、ということだ。ここで期待されるのは、主に電力料金の引き下げである。

 

太陽光発電vs既存の大型発電事業者

実際に発電事業者はたくさん参入している(もしあなたが太陽光発電設備で売電事業を営んでいれば、当然、発電事業者だ)。一方、配送電事業者に参入しよう、とすると、すでに整備されている電力会社の送電網に匹敵するインフラを整備する、というのは資金・設備・時間の面からも無茶な話だ。唯一、対抗できそうなのは鉄道会社くらいだが、これも限定的だ。

 

となると、各発電事業者は、既存の電力会社を母体とした送配電事業者に送配電を委託して、電力小売り事業者に電力を卸売りすることになる。一般消費者の我々は、任意の電力小売り事業者と契約して、電気を購入する。

 

ここで気をつけたいのは、小規模の再エネ発電所・発電会社は、比較的安価で電気を卸売りできる環境があるのに対し、大規模な発電会社は、一定以下に価格を下げることはできない、ということである。

 

発電所が大規模であるほど、ランニングコストや維持費がかかるのである。やや乱暴な展開ではあるが、太陽光発電設備の年間の維持費用と、火力発電所や原子力発電所の維持費用を比べてみたらどうなるだろう。筆者は、さすがに大規模な火力や原子力発電所のランニングコストまで知りえないが、かるく想像を巡らせてみても、圧倒的に太陽光発電所の方が安くつくだろう、と思える。

 

現実に、太陽光発電の自家消費が広まっているのは、環境への影響もさることながらグリッドパリティ(*)をむかえているために、1kwhあたりの価格が自家消費するほうが安い、という部分が大きい。

 

この安い太陽光発電由来の電気と、火力や原子力由来の電気が、オープンな市場で取引されたら、どうなるか。

 

単価が高い電気は売れ残り、価格を下げざるを得ない。系統に流れる電気は溜めておくことができないので、原価割れしても売り切るしかない。

 

ランニングコストがかかる大規模発電所を抱えた発電会社ほど、「電気が売れれば売れるほど赤字」になっていく。しかし、電気は重要インフラであり、市場原理で負けたから、といって安易に大規模発電会社を倒産させるわけにもいかないのだ。自力で利益を出すことができない、さりとて倒産させるわけにもいかない、となると、国が補助するしかないだろう。実際、いち早く電力自由化を成し遂げたドイツではそんな状況に陥っているそうである。

 

実際に日本でそうなるとは断言できないが、可能性がないわけではない。また、送電コスト(託送料金という。)を分離した電気料金が、どれだけの競争力を持った価格で市場に出回るか、これもわからない。

 

なにかと先行きは不透明ではあるが、2020年の4月1日は確実にやってくるのである。

 

 

*グリッドパリティ:再エネの発電コストが既存の電力のコスト(電力料金・発電コスト等)と同等かそれより安価になる点(コスト)を指す。(Wikipediaより引用)